ラフクッキング Rough Cooking

好きなもの食べたい。美味しいもの食べたい。知らないもの食べたい。

完全食を作った I made a perfect meal.

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ある日体重計に乗って驚愕した。

かつてないほどに体重が増えていたのだ。代謝が落ちたのか?階段で疲れるようになり、食事の量が減るなどして、うすうす感じていた肉体の老化を目の前に突きつけられた。

体重計を飛び降り、姿見で腹の出具合を確認しながら、俺はダイエットを決意した。腹回りだけは竹内涼真*1なのが取り柄の俺にとって、腹が出ることは自尊心に関わる重大事なのだ。

大学で生化学をかじったので、ダイエットには食事管理こそ最も効果的なアプローチなのはよく分かっていた。自分の為すことに疑いがないというのは何より自信になる。減量など恐るるに足らず。

俺は食材の栄養素のデータがまとめられたサイトと1時間ほど睨み合い、1日に必要な栄養素を確保しつつカロリーを抑えるための食材を選び抜いた。

さすが俺。ラフ*2という名前なのにこんなに凝り性なのは自己矛盾じゃないのか?

思い立ったが吉日と、ダイエット初日は張り切って、朝昼晩3食手作りした。

次の日もした。次の日も。次の日も。次の日も。

そしてパッタリとやめた。

…めんどくさい!同じ食材を使い続けるわけだから、せめて口に入るものには変化を付けようと毎食違う味付けや調理をしたのが裏目だった。

全く同じ食材を食べ続けるための工夫がこんなに大変だとは…。

かといって、新しい食材の組み合わせを考えるためにまた栄養データと格闘するのは勘弁願いたかった。給食のおばさん*3は素晴らしい知識と経験の持ち主だということを思い知った。

「ダイエットなんてやめてしまうか?好きなもの食べて体型が崩れたって本望じゃないか。第一、服を着たら傍目には分からんよ。」

俺の中の悪魔がささやく。ダメだダメだ。俺の中の天使よ。悩める俺にどうか勇気の出る言葉を授けてくれ。

「 覚悟が足りないのでは? 」

----ん?

「毎食変化を付けたいなんて甘えてるから苦しいんだよ」

「口に入れることが許されるのは1つの食事のみって割り切れ」

こうして俺は自分で自分をひっぱたくような考えに至った。そうだ。1日に必要なカロリーと栄養が全部詰まった「完全食」を作って、毎日それを完食し続ける。なんて単純明快なんだろう。できる。もう竹内涼真の肉体を取り戻すのは確定したも同然だった。

そうと決まれば早速完全食づくりだ。でも、どうせ完全食にするならもっと食材の数を減らしたい。そうすれば買い物の量も減るし、食べる量が減って完食するのが楽になる。

俺はこれまで、ビタミンをブロッコリーなどの緑黄色野菜から摂取していたが、代わりになる良いものをスーパーで見つけた。

そう、野菜ジュースだ(1日分の野菜:伊藤園野菜飲料シリーズ)。調べてみれば、ビタミンAなどの脂溶性ビタミンだけでなく、製造過程で失われがちなビタミンCなども後から添加されているとのことで、これさえ飲めばビタミン類の栄養不足についてはもはや憂いなしだった。何より食べ物の体積が減るし、値段も安い。文句なしだ。俺は1日分の野菜を使う事を決意した。

野菜ジュースを料理に使うとなると、作る料理は必然的に洋風になってくる。となると炭水化物はパンにしよう。パンと野菜ジュースを一緒に食べるならパンがゆか?トマト風味で意外とイケるかもしれない。あとは玉ねぎとじゃがいもとタンパク質に鶏胸肉を…。

以上の流れで俺の完全食、チキンパンがゆポトフもどき*4は完成した。寸胴の半量ほどもあるオレンジ色のドロドロ液体を見たとき、食欲を半分、沼地をみたような気持ちを半分感じた。

丼に盛って恐る恐る食べてみる。すると意外や意外。味は美味しかった。トマト風味のコンソメスープで、溶けかけたパンも良いアクセントになっている。もっと玉ねぎやじゃがいもの原型がなくなるほど徹底的に煮込めばさらにおいしくなるのではないか?あーよかったーと安堵しつつどんどん食べすすめた。

食べ終わり、人心地がつく。なんだ、完全食って悪くないな。思ったより美味しかったし、これなら続けられそう。ーそう思ってふと寸胴を覗いた。

減ってない。まったく。

目の錯覚だろと思い2杯目を食べる。ほんの少し。数cm液面が下がった。

調理中に気づくべきだった。味に対する不安が強すぎて肝心なことがおざなりになっていた。パンをスープに溶かし込むために水分量を多めにした結果、寸胴の半分ほどまで体積が増加してしまった。寸胴の半量を”毎日”食べるなんて苦行でしかない。第一、体積を減らすために野菜ジュースを採用したのに、これでは本末転倒だ。

俺はただただ食べた。空腹を少しでも感じたら完全食(笑)を胃の腑におさめた。この料理は日持ちしない。そもそもこいつを長くキッチンに存在させたくない。最初うまいと感じた味も、後半は何も感じなくなった、いやむしろ嫌いになった。

こんなことなら、毎食料理を考える方がいいや……。

トマトくさいゲップに顔をしかめ、寸胴にこびりついたパンくずをこそげ落としながら、俺は思った。ちなみに俺の腹は出てしまっていたし今日もそのままだ。

最後に。野菜ジュースはそのまま飲んだ方がいい。

 

 

竹内涼真*1・・・日本の俳優。かっこいい。仮面ライダードライブ。素晴らしい肉体をしている。腹回りだけ俺との相同性が非常に高い(要検証)。

 

ラフ*2・・・本名はラフじゃない。また、ペンネームであるこちらのラフも、英語表記ではRoughではなくRafなので別に大雑把といった意味はない。

 

給食のおばさん*3・・・俺の小学校にいた給食のおばさんは、すごい熱量で箸の持ち方を指導してくる鬱陶しい存在だった。でも、給食中まれに行われる栄養の授業でイキイキと話すおばさんは好きだった。俺は給食のおばさんを目指すべきだったのかもしれない。

 

チキンパンがゆポトフもどき*4・・・【チキンパンがゆポトフもどき】はラフの考案した名称のため許可なく使用・頒布・公開することを禁じます。(禁じません。というか禁じるとかできない)